嘘でも良い
色々なことを考えているうちに、職員室へ到着した。
彼は結局、最後まで持ってくれた。
「本当に助かりました。
ありがとうございます」
頭を下げてきっちりお礼を言うと、彼は首を振った。
そして小さく頭を下げた。
そのまま踵を返し、彼は元来た道を帰って行った。
彼、最後まで一言も話さなかったな。
マスクしているから、風邪でも引いているのかな?
まぁ良いか、ちゃんとお礼は言えたし。
「夏月じゃない」
「お姉ちゃん……」
「どうしたの?
何だか最近よく会うわね」
「担任に頼まれて教科書置きに来たの」
「そうなの。……あら?」
お姉ちゃんは彼の後姿を見て、素っ頓狂な声を上げた。
「月更彷徨(つきさら・かなた)じゃない」
「月更彷徨…?」
聞き覚えのない名前に、首を傾げる。
「驚いたわ。
夏月、月更彷徨と知り合いだったのね」
「教科書運んでくれるの手伝ってくれたの。
彼は、何者なの?」