嘘でも良い
第3章
思わぬ再会
授業中ふと、あたしは月更彷徨くんを思いだした。
歩くたびに揺れる黒髪。
すらりとした体躯。
さり気ない優しさ。
どことなく“月”を思わせるような人で。
ムーンくんを思い出してしまった。
たった3行しか書かない、手紙。
2通しか送らない、メール。
手紙が来てメールで返事して、帰ってくるたびに。
あたしはドキドキしているんだ。
今日も下駄箱にはいっているだろうか?
メールしたら、返信してくれるだろうか?
お姉ちゃんにはわからない、あたしだけが感じられるドキドキが、そこには確実にあった。
あたしは机に隠してチューリップ畑の写真を見た。
色とりどりに咲き乱れるチューリップ。
あたしの、大好きな花。
お姉ちゃんの、嫌いな花。
でもあたしがしていることは、詐欺と同じだ。
ムーンくんを、あたしは騙している。
それでも朝の小さな幸せが、続いてほしいと思ってしまうあたしは、我が儘だろうか?
それとも、悪い人だろうか?
好き。
チューリップが。
ムーンくんが。