嘘でも良い
小さい頃から、友達も恋人も姫も美しいも可愛いも、全てお姉ちゃんのためにある言葉だった。
女の子って小さい頃、お伽噺に出てくるお姫様に憧れると思うけど。
あたしは全く憧れることがなかった。
だって、すでにあたしの傍にはお姫様がいたから。
お姫様も、全てお姉ちゃんのためにある言葉。
あたしなんかがお姫様になれるはずなかった。
「こ、越田」
「……何?」
小説を読んで、作者の作りだす架空の世界に浸っていたのに。
クラスの男子に邪魔されたから、思わず声が低くなってしまった。
だけど、もういつものことだ、日常茶飯事だ。
男子は驚いた様子もなく、あたしに手紙を差し出した。
表には、【越田夏美様】と書かれている。
「渡しておけば良いわけね」
自分で渡せよ、このヘタレ野郎。
「お願い。
あと、越田に聞きたいんだけどさ」
「何?」
早く済ませて。
話の世界から完全に飛んじゃう前に。
「夏美様、今彼氏いるのか?」
夏美様って何?
お姉ちゃんはあたしたちと同じ年齢だよ?
何で年上じゃないのに様付けるわけ?
そんなにお姉ちゃんは高貴の人かい?
高嶺の花ってやつかい?
夏美様って呼ぶんだったら、手紙渡そうとするんじゃないよ。
様って呼ぶぐらい高貴な人なんでしょ、お姉ちゃんは。