嘘でも良い
あたしは思い切って、下駄箱の箱を開けた。
「……あっ」
思わず声を出した。
ない。
月の封筒が、ない。
ムーンくんからの手紙が、ない。
何で?
お姉ちゃんに彼氏が出来たから?
もしかして、“越田夏美”の正体があたしってバレた?
あたしが身代わりをしていたって、バレたの?
嫌だ。
そんなの、嫌だよ。
前に植えたチューリップも、まだ咲いていないんだよ。
綺麗に咲いたら、写真送るって、あたし密かに楽しみにしていたんだよ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
あたしはいつもの女子トイレの個室へ、教室に鞄を置かずに走った。