嘘でも良い
兄貴は僕と違って誰に対しても笑顔で、人懐っこい性格だった。
だけどそれは、表の顔。
本当の兄貴は正確は黒くて、何考えているかわからないような人だった。
誰かの前で楽しそうに笑っていても、心の中では「何だコイツ」と馬鹿にして。
女子から人気で、色々プレゼントをもらうと「ありがとう」とか笑顔を振りまくくせに、実際は「当たり前」と思っていたり。
母さんはそんな兄貴の裏の性格に気が付かないで、親同士の話の中では兄貴の自慢ばかりして。
その上僕のことは何も言わないで、兄貴は一人っ子だとずっと話していた。
別に僕はさほど気にしなかった。
だってそれが、当たり前だったから。
僕より兄貴が優先。
それは両親が離婚する前も、同じ、変わらなかった。
兄貴は僕の家に来るたび、兄貴が女子から受け取る手紙の代筆を頼んできた。
僕と兄貴は字が似ていたから、誰も疑わなかった。
だから兄貴はあの時も、僕にお願いしたんだと思う。
「なぁ彷徨。
お願いがあるんだよ」
<何?>
話せない僕は、メモ用紙に言いたいことを書いていった。
「三金(みかね)高校に転校しないか?」
三金高校は、ここから近い共学の高校。
転校も何も、僕は高校に通っていない。
兄貴と同じ高校に在籍はしているけど、通っていない。
僕は首を傾げた。