嘘でも良い
男子が1人の女子を見ながら笑っている。
女子は何も言わずに、胸元を押さえていた。
肩までの黒髪で、分厚いレンズの眼鏡に膝下スカートという、地味な感じの子だった。
ネクタイの色が2年のモノだから、彼女は2年生。
2年に越田という名字は、越田双子しかいない。
だから彼女は―――越田夏月の方だろう。
現に先ほど、越田と呼び捨てにされていた。
越田夏美は殆どの生徒に、“夏美様”と呼ばれているから。
同い年に限らず、先輩後輩合わせて様付けだ。
越田夏美という存在は、そんなに価値があるのだろうか?
…まぁ、僕には関係ないけど。
「貸せよッ!」
「やめて!」
胸元に押さえつけているもの―――恐らく手紙を男子に取られそうになった越田夏月は、全身で拒絶すると、そのまま僕の横をすり抜けて行ってしまった。
残された男子はポカーンッと間抜けに突っ立っていた。
「ちょっと!
夏月に何しているのよ」
「ご、ごめんなさい…夏美様」
越田夏美に謝られ、頭を下げる男子。
本当に越田夏美は、“様”なんだな。
女王様みたいだ。