嘘でも良い
僕はもう1度拾いなおした。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら立ち去ろうとする越田夏月。
…また、落としそうだな。
そう思った僕は、彼女の目の前に立つ。
彼女は驚いたように目を見開いた。
僕は無視して、彼女の腕元にある教科書を抱えた。
全部は持たず、半分。
「え、持ってくれるんですか?」
僕は頷く。
彼女、僕の声が出ないこと、知っていないのかもしれないな。
僕の声が出ないこと、なんだか転入したての頃話題になったからな。
直接の原因を誰も知らないことには助かった覚えがある。
「そんな…悪いですよ!」
彼女は断ろうとしていたけど、僕は首を振って断った。
また落としそうに見えるから、なんて言ったら失礼だろうな。
「お言葉に…甘えても良いんですか?」
控えめに聞いてくる彼女。
きっと姉と違って、こういうのに慣れていないんだろうな。
人気者の上を持つと、大変だよね。
僕は勝手に、彼女に同情した。