嘘でも良い
彼女は歩きだしてからは何も言わず、黙り込んでいた。
僕は話せないから、黙るしかない。
黙るも何もないんだろうけど。
僕はふと、横目で彼女を見る。
まぁ長い前髪のせいで、前髪越しだけどね。
歩くたびに左右に揺れる黒髪。
女子らしいヘアピンなどはしていない。
横から見るとよく見える、分厚いレンズの眼鏡。
姉とは違い、目立たないタイプなのは一目瞭然だった。
僕が155だから…150ぐらいの身長しかない。
彼女に聞けば、わかるのかな。
僕とメールしているのは、本当に“越田夏美”なのか。
もしかしたら―――。
そんなことを考えているうちに、職員室に着いた。
良い具合にサボれた。
お礼を言う彼女に「構わないよ」という意味で首を振り、会釈を返した。
そして踵を返して、教室へ戻る。
「月更、次はサボるなよ」
それしか先生には言われなかった。
僕は目立たない程度に頷き、自分の席に座った。