叶う。 Chapter1
「・・・誰?」
その女の人は、もう一度シオンにそう問いかける。
「妹。」
シオンは冷めた声でそう言うと、女の人の手を振りほどいて私の目の前にやってきた。
「あ・・・あの、まさか紫音さんの妹さんだったなんて。」
さっきまでの鼻歌交じりのご機嫌はどこにいったのやら、男はやたらと焦ったように早口でそう言った。
だけれどシオンはその男を視界にすら入れずに、完全に無視した。
「・・・帰るぞ。」
「・・・・うん。」
私はなんだか凄く申し訳なくなって、シオンと一緒に居た女の人に頭を下げた。
一瞬ちらっと視線が合ったけれど、その女の人は口をキュっと結んでそっぽを向いて歩いて行ってしまった。
ひょっとしたら、シオンの彼女だったのだろうか?
ここはホテル街だし、ひょっとしたらデートだったのかもしれないと思うと、とても申し訳ない気分になった。
そう思った瞬間、シオンは無言で私の腰の辺りに手を添えて家の方向に歩き始めた。
さっきまでの他人の不快な体温と違う、シオンの体温になぜかすごく安心する。