叶う。 Chapter1
「やぁ、アンナちゃんお帰り。」
「こんばんは、岸谷さん。」
「最近、帰りが遅いね。ピアノかい?」
「はい、発表会が近いので。」
「大変だね、でもアンナちゃんの演奏を聴いてみたいもんだね。とても上手だって噂だから。」
「・・・ありがとうございます。」
岸谷さんはそう言って、手元の機械を操作した。
マンションの入り口がゆっくりと開く。
岸谷さんはこのマンションの守衛さん。
多分、年齢でいったら私のおじいちゃんくらいの年齢なんだと思う。
私がこのマンションにやってきてから、家族以外で唯一会話をするのは、この岸谷さんくらいだ。