叶う。 Chapter1




「いらっしゃいアンナ。」

教室には既に先生の旦那さんである、私のソルフェージュの先生が待っていた。


「遅くなってごめんなさい。」

「いやいや、大丈夫だよ。」


この先生は、奥さんとは違って一見物凄く厳格そうな雰囲気の先生だった。
眼光も鋭く、少し鷲鼻気味の高い鼻が、いっそう先生の雰囲気を気難しそうに見せている。

先生はその見た目の通り、レッスンにとても厳しい。
だけれど、やっぱりきちんと結果を残す先生なのでママもとても信頼している。

年齢は多分奥さんよりもかなり年上だろうことが、白髪の混じった髪から推測出来るけれど、実際に聞いた事はなかった。


「早速始めようか。」

「お願いします。」

「じゃあ、今日は聴音からやろう。」


先生がそう言って、ピアノの前に座ったので私は鞄から五線譜のノートと筆記用具を取り出した。
聴音はひたすら先生の弾く音だけを聴いてノートに正確に書き写していく作業だ。

これが結構大変で、きちんと集中しないと直ぐに間違える。
最近は間違える事も少なくなってきたけれど、その分メロディも複雑になってきているので大変だった。




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