叶う。 Chapter1
「冷たいじゃん。」
私は突然の出来事に思わず立ち止まった。
和也は私の片手を突然掴んだのだ。
「こうすれば少しは温かいかも。」
そう言って、私の片手を掴んだまま自分のパーカーのポケットにしまう。
ポケットの中は温かくて、和也の体温を感じる。
今日出遭ったばかりの人に、そんなことをされたら普通はどう感じるのだろうか、とふと思ったけれど、なぜかそれは全然不快な気分じゃなかった。
レオンの日頃の行動で感覚が麻痺しているのかもしれないと思ったけれど、繋いだ手が温かかったので私は気にしないようにした。
それに、きっと和也には変な気持ちはないと思った。
やましいことを考えている人間は、その瞳を見れば分かる。
欲に塗れたその瞳は、何度も見慣れているから嫌でも分かる。
だから私は安心して、手を引かれて歩く。
「かなう?」
「うん?」
「かなうってさ・・・。」
「うん?」
「凛といつから仲良かったの?」
私は凛と出会った頃を思い出した。
「多分、1年の秋くらいかなぁ。」
「結構長いんだなw」
「和也たち程じゃないでしょ?」
「まぁ、俺らは腐れ縁だからな。」
「でも、すごく羨ましい。」
「何が?」
「私には、凛と会うまで家族しか居なかったから。」
私は何を言っているんだろう?
口をついて勝手に出た言葉に自分自身で驚いた。
そんなこと言うつもりなんてなかったし、口が滑ったと咄嗟に思ったけれど言ってしまったからには仕方ない。