叶う。 Chapter1
「いいから、ちゃんと送るって。」
「平気だよ?」
「俺が平気じゃない。」
和也はそう言って、呆れたように笑った。
そしてまた私の手を取って歩きはじめる。
「家どの辺り?」
「ここを真っ直ぐ行って、突き当たりを右。」
「あー、あのでかいマンション?」
「・・・うん。」
和也の言葉に、家を知られてた事にちょっとだけソワソワする。
まさか、家まで本当に来るつもりなんだろうか。
だけれど結果はそのまさかで、和也はきちんと私の住むマンションの入り口まで、私を送り届けた。
そして更に気まずい事に、入り口から見えるエントランスに、見慣れた人影があるのに私は気が付いた。
思わず、繋がれていた手を慌てて離す。
向こうもそれに気付き、こちらに向かってにこやかにやってくる。
「おかえり。」
それはママだった。
大判のストールを両手で身体に巻きつけて、ママはにっこりとご機嫌な様子で私達の目の前にやってくると、和也を上から下までじっくり観察した。
「遅くなってすみませんでした。」
ママの視線を全く気にもしてないように、和也は丁寧に頭を下げた。
遅くなったのは和也のせいではないのに、私は何だか申し訳なくなった。