叶う。 Chapter1




防音室に篭って、いつものように何曲か練習を続けていると扉が静かに開く音かしたので私は鍵盤から手を離した。

振り返ると、どうやらお風呂に入ってきたらしいママがにっこりと笑って私の隣に置かれた椅子に座った。

微かに柑橘系の香りがする。
それはとてもいい香りなので、私はお風呂に入りたくなった。


「何か弾く?」


私はママにそう聞いた。


「そうね、幻想即興曲がいいわ。」


ママはそう言って優しく微笑んだ。

ママにリクエストされたとおり、ショパンの楽譜を広げて私は浅く呼吸をすると、鍵盤に手を乗せた。


私はこの曲があまり得意ではない。

何より難しく、後半になるに連れて音の強弱が更に強くなるので、単調な演奏しか出来ない私にはとても難しい曲だった。


それでもなんとか無事に演奏を終えると、ママは拍手してくれた。


「アンナはどんどん上手くなるわね。」


ママはそう言って、私の頭を優しく撫でた。

その後もママはいくつか曲をリクエストしたので、私はそれを出来る限り心を込めて演奏した。




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