叶う。 Chapter1
私はなぜ、この家に引き取られたのだろう。
ふと、そんな事を考えてみたけれど、その答えは私には分からなかった。
夢に見るまで、あの日出遭った男の子がシオンだという事すら忘れていた。
それよりも過去を思い出すことは出来るのに、何故かシオンと逢った日以降の事が、鮮明に思い出せない。
でも私はこうしてここに存在するのだから、きっと何かがあったはず。
だけれど、それがどうしても思い出せない。
出口のない迷路に入り込んだみたいに、一抹の不安が押し寄せる。
私は何だか怖くなって、考えるのを辞めた。
今更そんな事を思い出したって、何かが変わるわけじゃない。
だけれど、その夢は私の心に少しの変化をもたらした。
それは、シオンのこと。
部屋の扉が静かに開く音がした。
私の思考はそこで止まった。
扉に視線を向けると、その人はいつもと同じ、冷めた蒼い瞳で私を見つめてた。
リンゴ片手に果物ナイフを持ったその人は、音もなく静かにやってきて、また私のベッドに座る。