叶う。 Chapter1
「これくらい食えるだろ?」
シオンはそう言って、器用にリンゴの皮をむいてくれる。
自分でするよ、と言おうか迷ったけれど、眩暈がする私は手を滑らせて怪我をするのが目に見えていたので、大人しくしていることにした。
シオンの掌が視界に入る度、左手に見えるうすい傷跡に視線が行ってしまう。
こんなに意識してしまうなら、夢なんて見なければ良かったと思った。
思い出さなければ良かった。
だけれど不思議なもので、何故か2人でいるこの空間がさっきとは違って苦痛ではなくなっていた。
シオンが握る果物ナイフがキラリと銀色に光る度に、なぜあの日シオンは自分の手を切ったのだろうと疑問に思う。
“君の痛いの貰ってあげる”
シオンは確かにあの時、そう言った。