叶う。 Chapter1
その姿は流石だと思う。
一つの事にしか集中出来ない私には、なぜそんな器用なことが出来るのだろうと不思議に思う。
「・・・あの、兄は?」
シオンの事を聞きたかったけれど、何となく聞きにくかったのでそう聞いてみる。
「レオン坊ちゃんはまだ帰っていませんよ?」
それは残念ながら私の知りたい答えではなかった。
なので、私はなんでもない風を装いながら確信をつく質問に変えた。
「・・・あの・・・シオンは?家に居たと思うのですけど。」
「あぁ、シオン坊ちゃんは出掛けましたよ。」
「・・・・出かけた?」
隣で寝ていたはずなのに。
「先程、何かすごく綺麗な女性が尋ねてらして。でも、私はインターフォン越しでしか見てませんけど。」
家に来たの?
「それで、直ぐにお出掛けになりましたよ。彼女なのかしらねぇ。」
五十嵐さんはそう言って、濡れた手をタオルで拭きながら笑顔で私の方を向く。
「お坊ちゃん達も年頃になりましたね。」
「・・・・そう・・・ですね。」
「さぁ、出来ましたよ。」
もう下準備は済んでいたのか、それとも五十嵐さんの成せる業なのかは疑問だけれど、その手際の良さは流石だと思う。
五十嵐さんは相変わらずテキパキと、私の前に鍋敷きを置いて出来たての鍋焼きうどんを運んだ。