叶う。 Chapter1





携帯を耳に当てると、すぐに呼び出し音が聞こえてくる。

私は無意識に緊張して、パジャマのズボンのパイル地を引っ張り出していた。

10回程コールが鳴り続け、流石に切ろうかと迷ったその瞬間。


“もしもし”

「・・・・あ・・。」


突然繋がった電話に、思わず頭が真っ白になった。

言いたい事をきちんとまとめたはずなのに、何故か言葉が迷子になってしまった。


“かなう?”

「・・・あの。」

和也の背後が騒がしいので、その声音が聞き取りにくい。

こういう時、自分の耳の良さが鬱陶しく感じる。
聞きたい声以外の物音すら拾うこの耳が、とても邪魔に感じる。


“大丈夫か?”

「うん・・・ごめん。」

雑音に混ざった和也の声音を何とか聞き取る。

昨日勝手に電話を切ったのは私なのに、最初に気遣う言葉をかけてくれた和也に何だか更に申し訳なさが募る。

“今、平気なの?”

「うん・・・。」

沢山言いたい事があったのに、何故か言葉が出てこない。


“じゃあ、ちょっと待ってて”

「・・・・うん。」

“かけなおすね”

和也はそれだけ言うと、私が何かを言う隙もなく電話を切った。

その行動に、ちょっとだけ不安になる。

ひょっとして、やっぱり怒っているのだろうか?





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