叶う。 Chapter1
玄関を出ると、途端に冷たい北風が私の身体を吹き抜ける。
天気はとてもいいけれど、今日は風が冷たい。
コートを着てきて大正解だったと思いながら、私は急ぎ足で駅への道を歩いた。
いつもと同じその道のりは、相変わらず朝から沢山の人々で賑わっている。
これだけ人が沢山居ると、突然自分がこの場所から消え去ってしまっても、きっと誰も気づかないんじゃないか、とふと感じてしまう。
世界にはもっと沢山の人々が居て、そんな中に居る自分の存在はとてもちっぽけで、意味のないものなのかもしれないと思った。
それでも人は生きるし、何かトラブルがなければ心臓がその鼓動を止めるまでの長い時間、こうやって何でもない日常を過ごす。
それは当たり前の事だけれど、私の母親にとってはそれが当たり前の事ではなかったのだろうか?
久しぶりにそんな事を考えた。
なぜ急に、そんな事を考えたのかは分からない。
だけれど人間とは不思議なもので、何でもない時ほど、おかしな事が頭に浮かんで来るものだと私は思う。
母親の事を思い出すと、必ず嫌な気分になる。
それでも最近は、変に取り乱したりすることも無くなったので、やっぱり私は少しずつだけれど、ちゃんと成長しているんだと思った。