叶う。 Chapter1
私の恥ずかしさとは反対に電車はどんどん減速して、私の住む街の駅に着いた。
和也に手を引かれながら電車を降りると、人でごった返した駅を抜ける。
私は見慣れたその景色を見ると、なんだか今日一日の出来事が夢だったんじゃないかと錯覚した。
だけれど隣には和也が居て、こうして繋いだ手からその体温を感じるのだから、全てが現実だったと理解する。
なんだか、自分が自分でなくなったかのような不思議な感覚だった。
11月の風はとても冷たいけれど、なぜか心はとても温かかった。
「かなうってさ。」
「うん?」
「なんか好きな食べ物とかあるの?」
「うーん、特にないかも。」
「そうなの?」
「果物は好きかな。」
「イチゴだろ?」
「え?」
和也は一瞬人の心が読めるのかと思った。
「やっぱりwかなう分かりやすいわ。」
「……なんで?」
「だってさっきコンビニで、イチゴチョコとイチゴオレ買ってたし。イチゴばっかり見てたじゃん。」
和也は、そう言って笑った。
普段周りを見ない私には、その観察力は凄いと思えた。
「うん、イチゴ好きだよ。和也は何が好き?」
純粋に和也の好きな食べ物が気になったので、そう聞いてみる。
「俺はかなうが好き。」
「私……食べ物じゃないよ?」
私がそう言うと、和也はなんだか楽しそうに笑った。