叶う。 Chapter1





私の恥ずかしさとは反対に電車はどんどん減速して、私の住む街の駅に着いた。

和也に手を引かれながら電車を降りると、人でごった返した駅を抜ける。
私は見慣れたその景色を見ると、なんだか今日一日の出来事が夢だったんじゃないかと錯覚した。

だけれど隣には和也が居て、こうして繋いだ手からその体温を感じるのだから、全てが現実だったと理解する。
なんだか、自分が自分でなくなったかのような不思議な感覚だった。

11月の風はとても冷たいけれど、なぜか心はとても温かかった。


「かなうってさ。」

「うん?」

「なんか好きな食べ物とかあるの?」

「うーん、特にないかも。」

「そうなの?」

「果物は好きかな。」

「イチゴだろ?」

「え?」

和也は一瞬人の心が読めるのかと思った。

「やっぱりwかなう分かりやすいわ。」

「……なんで?」

「だってさっきコンビニで、イチゴチョコとイチゴオレ買ってたし。イチゴばっかり見てたじゃん。」


和也は、そう言って笑った。
普段周りを見ない私には、その観察力は凄いと思えた。

「うん、イチゴ好きだよ。和也は何が好き?」

純粋に和也の好きな食べ物が気になったので、そう聞いてみる。

「俺はかなうが好き。」

「私……食べ物じゃないよ?」

私がそう言うと、和也はなんだか楽しそうに笑った。




< 373 / 452 >

この作品をシェア

pagetop