叶う。 Chapter1
そんな話をしていると、直ぐにピアノ教室に着いてしまった。
なんだか、無性にこの手を離すのが嫌だった。
「じゃあ、後で迎えに来るよ。6時ぐらいな?」
「うん……どこに居るの?」
和也に無駄に時間を過ごさせてしまうことに、ほんの少し憂鬱な気分になった。
「うーん、多分スクールで遊んでる。」
「そうなの?……ごめんね。」
「なんで?」
「私のせいで、無駄な時間……。」
過ごさせちゃって、と言いたかったけれど言葉が出て来なかった。
和也はそんな私の頭を優しくクシャクシャとすると、優しく笑ってこう言った。
「俺にとっては無駄な時間じゃないよ。」
そう言って、私の手を離した。
途端に繋がれていた左手が、急激に熱を失う。
「もう時間だよ。ピアノ頑張ってな。」
「うん。ありがとう。」
「6時ぐらいに迎えに来るから、何かあったら連絡入れて。」
和也はそう言って、ポケットから携帯を取り出した。
「……うん。」
私はそう言ってから、振り返ると見慣れたピアノの先生の家のチャイムを鳴らした。
和也はその姿を確認すると、ゆっくりとその場を立ち去った。
一瞬振り返って手を振ってくれたので、私も小さく手を振ったけれど、同時にピアノの先生が玄関を開けたので、直ぐにそっちに視線を移した。