叶う。 Chapter1





ピアノとは不思議なもので、毎日同じ曲を弾いていても、どこか同じじゃないような気がする。

それは弾く人によっても様々で、同じ曲でも全く違う曲に聴こえることがある。

私はプロのピアニストのコンサートに、ママや先生に連れられて何度か行ったこともあったけれど、その理由が分からなかった。

だけれど、今日初めてその理由に気がついた。


ピアノは私の心と直結しているのだ。
感情がない私の弾く曲は単調で、とてもつまらない音を奏でる。

だけれど、今日は何かが違う。
その音はとても温かくて、心にずっしりと響く。


温かなその音は耳にとても心地よく、弾いているだけでとても楽しく幸せな気分になる。

この音を、みんなに聴いて欲しい。

そして、少しでも沢山の人々に幸せな気分になって貰いたい。

私の奏でるこの音が、聴いてくれる全ての人々に幸せを運べるように、そんな願いを込めて演奏した。




私は演奏を終えると、途端に腕が重たくなった。
毎回集中はしているけれど、いつもの倍くらいの重さに感じる。

昨日練習をサボったからだと思ったけれど、何やら先生の様子がおかしい事にふと気がついた。

何時もなら、演奏の途中だろうが容赦なく厳しく口を挟む先生が、なぜだか一言も喋らない。

怒っているのだろうか?
私は途端に怖くなって、先生と目を合わせないように俯いた。






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