叶う。 Chapter1
「アンナ?」
不意に先生に声を掛けられて、一瞬にしてさっきまでの高揚感がサーっと身体から引いていく。
何を言われるのか、恐る恐ると先生の顔を伺った。
「どうしたのかしら?……なんか、あった?」
先生はそう言って、私の顔を覗き込む。
「い、え……何も……。」
先生は何とも言えない顔をしていた。
悲しそうな、何か物言いたげな、そんな表情。
そんなに私の演奏が酷かったのかと、私は自己嫌悪に陥りそうだった。
「素晴らしいわ。」
だけれど、先生は突然そう言って私の背中を優しく撫でた。
「ごめんなさいね、びっくりしちゃって。」
先生はそう言って、いつも私が汗をかいた時に用意してくれているピアノに置かれたハンカチを目に当てた。
私は驚いて、何も言葉が出なかった。
先生はうっすらと赤くなった目で、私をじっと見つめると、小さな声でこう言った。
「正直、アンナはもう伸びないと思ってたの。それなのに、本当によく頑張ったわね。先生嬉しくて……。発表会が楽しみだわ。今年はアンナの一人勝ちね。」
先生はそう言って、優しく微笑んだ。
私は何だか胸が一杯で、言葉に詰まった。
いつも叱られてばかりだったので、そんな事を言われたら何て言ったら良いのか分からなかった。