叶う。 Chapter1
「お待たせ。」
私はその人の目の前に着くと、自然とそう言った。
「おつかれ。ピアノどうだった?」
「今日は上手に出来たよ。」
私がそう言うと、和也は私の頭を優しく撫でた。
その仕草がなぜかとても心地よく感じる。
「じゃあ、帰るか?」
和也はそう言ってまた私の左手を掴まえたけれど、私はもう少しだけ一緒に居たいと、なぜかそう思う。
いつもなら、何も気にせず真っ直ぐ帰るのに。
和也に無駄な時間を過ごさせてしまった罪悪感か、また別の感情なのかは分からないけれど、ただもう少しだけ一緒に居たいと思った。
自分の気持ちが分からなくて、少しだけ不安になる。
時刻は午後の6時を少し過ぎたくらいだったから、せめて和也のダンスの時間くらいまでだったら、一緒に居ても迷惑じゃないんだろうか?
私のそんな気持ちには気付いてないのか、和也は私の手を引きながらゆっくりと歩く。
その方向は、間違いなく私の家の方角だった。
「あ・・・あのね。」
私がそう言うと、和也は立ち止まった。
「ん?どうした?」
「あの・・・迷惑じゃなかったら・・・あのね。」
「うん?」
「どこかで、もう少し・・・話さない?」
その言葉を伝えるのは、酷く緊張した。