叶う。 Chapter1
「じゃあ、ダンス頑張ってね。」
「おー、頑張って来るよ。」
和也はそう言ってもう一度私の髪を撫でると、手を振って歩いて行った。
私はその後ろ姿が見えなくなるまで、しっかりと和也の姿を視界に捉えていた。
途中振り返った和也に、小さく手を振ると和也も手を振ってくれた。
だけれど、それを最後に和也の姿は見えなくなった。
なんだかすごく寂しく感じたけれど、また明日と言った和也の言葉がしっかりと頭に記憶されていたので、私は大人しくマンションの入り口に向かった。
「おかえり。アンナちゃん。」
「こんばんは岸谷さん。」
「カッコいい子だね。彼氏かい?」
やっぱり岸谷さんに見られていたことを再確認すると、途端に恥ずかしくなる。
だから私は質問には答えずに、曖昧に笑っておいた。
岸谷さんはそんな私に深くは追及せずに、いつもと同じようにマンションの入り口を開けてくれた。
私は会釈だけをして、何か聞かれる前にさっさと自宅へと帰った。
自宅に帰ればいつもと同じ。
少し遅くなってしまったけれど、家には案の定誰も居なかった。
私は何となくホッとした。
別に疚しい事がある訳じゃないけれど、なんとなく今日は一人で過ごしたいと思った。