叶う。 Chapter1
「いってきます!」
玄関でローファーを履きながら、リビングに向かって出来る限り大きな声で言った。
その瞬間、リビングのドアが開いた音がして、レオンの声が聞こえてきた。
「あーちゃん、気をつけてね!」
「はーい。」
姿は見えなかったけれど、確認している時間もなかったので、私はそのまま玄関を出た。
小走り気味に駅までの道のりを歩く。
11月の風は冷たいけれど、日差しはまだ暖かくて私はその空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
もう歩きなれた駅までの道のりは、朝なのに人通りが多い。
夜の町と言われているこの地域だけれど、それと同じくらい沢山の会社がひしめき合っているからだ。
通勤途中のサラリーマンや、夜の仕事帰りだろう姿の人々まで、沢山の人で賑っている。
通いなれたピアノ教室の前を通り過ぎ、私はそのまま人で混み合う駅に向かう。
カード一枚で改札を通り過ぎると、いつもの電車がやってくるホームに向かった。