叶う。 Chapter1
この日のピアノの出来は何故か完璧だった。
昨日練習してこなかったのに、先生はそんな私に気がつかなかった様子だった。
音が単調だったり、機械的だと、先生は毎回音が硬いと言って注意するのだけれど、今日は演奏を終えた私に拍手してくれたくらい、先生から見て完璧だったらしい。
「昨日沢山練習したの?」
2時間の練習が無事に終わり、楽譜を片付けている私に先生はそう言った。
「・・・少しだけ。」
私は曖昧に笑って誤魔化そうとした。
「そう、でもすごく良くなった。何ていうのかしら、こう、アンナの弾く曲はいつもなんだか単調さがあるんだけど、今日はすごく良かったわ。」
私はどう答えていいのか分からなくて、首を軽く傾げた。
「ピアノはね、ただ弾くだけなら誰でも練習すれば出来るようになるの。ただそれを誰かに聞かせた時に、どれだけ相手にその曲の持っている感情を表現出来るのか、どうしたら相手に伝わるのか、どれだけその曲に心を込めて演奏出来るか、それが全てなのよ。」
難しい言葉を並べられて、私は上手く理解出来なかったけれど、黙って先生の目をじっと見つめた。
先生が何かとても大切な事を言っている気がしたからだ。