叶う。 Chapter1
「例えば、月光を弾くとき、アンナはどんなイメージを持って弾いてる?」
月光とは、かの有名な作曲家ベートーヴェンのピアノソナタの中でも名曲と言われる曲だった。
「なんとなくですけど・・・・悲しい曲のイメージです。」
私は今までそんな事を深く考えたことはなかった。
「そう、悲しいイメージは確かにあるわね。だけど、そうじゃないのよ。例えば、そうね、アンナがどうしても好きになった人がいたとして、もしその人と結ばれることが出来ない状況だったとしたら、アンナはどう感じる?」
「・・・・・。」
正直、先生の言っている事は私には経験がないので分からない。
「ちょっと難しいかしら?じゃあ、アンナは大切な人をイメージして、その人の為にピアノを弾くとしたら、どんな風に演奏したいと思う?相手にどんな気持ちになってほしいと思う?」
頭の中に、ママの姿が浮かんだ。
私の演奏を聴いて、優しく微笑むママの姿を見ると、とても幸せな気持ちになる。
「幸せな・・・気持ちになってもらいたいです。」
「そう、そう、それでいいの。相手に気持ちを伝える為に心を込めて演奏すること。相手がアンナの演奏を聞いてどんな風に感じるか。一番大事なことだからね。それと、曲を作った人がどんな気持ちを込めてその曲を作ったのかイメージすること。大袈裟に言えば、作曲家の気持ちになって演奏するの。」