叶う。 Chapter1
作曲家の気持ちになって演奏すること。
先生の言葉の意味がなんとなくだけれど、理解出来た。
「アンナは楽譜通りに弾くことは、完璧なのよ。だけど、演奏に心が入ってないの。だけど、今日はとっても良かったわ。演奏が生き生きしてた。その調子で発表会まで頑張りましょうね。」
先生はそう言って、優しく私の手に自分の手を重ねた。
グランプリに興味がなかった私だったけれど、こんな私にとてもためになる話を聞かせてくれた先生。
その期待に少なからず応えたい、とこの時の私はそう思った。
いつものように、玄関まで先生に見送られてピアノ教室を出る。
「気をつけて帰ってね。」
「はい、ありがとうございました。」
いつもと同じ帰り道、だけれどなんだか気分がとてもすっきりしていた。