叶う。 Chapter1
ふーふーと思わず息が出てしまうくらい重たい本を両手でぶら下げながら、駅前の信号を渡る。
そして、ふと足を止めた。
駅から自宅に戻るのは、正確には二つのルートがある。
一つはいつも通るピアノ教室の前を通って、まばらにある住宅街を抜けていく道。
普段は必ずそっちの道を通る。
理由は人通りも多いし、安全だから。
でもその道は少し遠回りなので、駅からだと徒歩20分くらいの時間がかかる。
そしてもう一つある道は、徒歩10分程度で自宅まで着くのだけれど、俗に言う裏通りという道で、まともな人はあまり通らない道だった。
その道は、明らかに如何わしいお店や、ラブホテル、ナイトクラブなどが立ち並ぶいかにも怪しさ満点の通りだった。
もちろんその通りだって人通りが少ないわけじゃない。
普段なら絶対通る事すら考えないのだけれど、両手に圧し掛かる重みに、10分の時間短縮という誘惑はとても魅力を感じてしまう。
昼間なら何度か通った事もあるし、なるべく急いで抜ければ大丈夫だろう。
私はそう考えて、薄暗い裏道へと歩いていった。