叶う。 Chapter1



なるべく周りを見ないように、少し俯いて歩く。


その場所はやっぱり、表通りとは違って薄暗い。

足早に通り過ぎたいけれど、肩に教科書の詰まった鞄、両手には重たい紙袋を提げているので、思うように歩くのが難しい。


周りを見ないようにしているけれど、それでも私の耳には色々な声が聞こえてくる。


男を誘う女性の猫撫で声や、下品に笑う若い男女の声、遠くから聞こえる叫び声や、不快な重低音の混ざった音楽。

聞きたくなくても聞こえてしまうその聞きなれない雑音は、私の動悸を早くする。

「お嬢ちゃん」と、声が聞こえて口笛を吹かれた気がしたけれど、私は聞こえない振りをして歩き続けた。


半分くらいの道をなんとか過ぎた所で、やっぱり表通りから帰れば良かったと後悔し始めた。
だけれど今から戻るのも馬鹿らしい。


すると薄暗い通りに、急に明かりが差し込んできた気がして私は目線だけを上げた。
その場所はコンビニで、煌々と明かりがついたコンビニに私は何故かとても安心した。

暗がりは嫌い。




< 95 / 452 >

この作品をシェア

pagetop