叶う。 Chapter1
そのコンビニを通り過ぎて、左に曲がってホテル街を抜ければ公園があって、自宅が見えてくるはずだった。
そう思ってほっとしかけたその時だった。
「お嬢ちゃーん、無視しないでよ。」
いきなり背後からガシっと肩を捕まれて、私は驚きのあまり重たい本を落としてしまった。
衝撃で紙袋が破れる音がした。
恐る恐る振り返ると、見たこともない若い男の人が私の肩を掴んでいる。
短い髪を金髪に染めて、瞼と鼻と口に目立つピアスを開けた、見るからにやばそうな雰囲気のその男は、気味悪くニヤニヤとこちらを見ている。
「お嬢ちゃん日本語わかる?」
硬直して動けない私に、その男は掴んだ肩を離さないまま私の顔を覗き込むように見つめてくる。
どうしよう。
日本語が分からない振りをしようか。
「For someting?(なにかよう?)」
私がそう言うと、男は私から手を離し、落ちていた本を拾い上げる。
そしてそれをパラパラ捲る。
勝手に触らないで、と抗議したかったけれど、英語で話しかけてしまったので、ここは大人しくしておこうと思った。
一応人目もあるし日本語が話せない振りをしておけば、何かされることもないだろう。