甘くて、苦くて、それが恋【超短編集】
恋に余裕はありません
「…ねえ、何怒ってんの。」
さっきから、隣の席のヤツがなんだかご機嫌ナナメな様子。
机に突っ伏し、私の言葉にも応答がない。
「ねえってば。聞いてる?」
ゆさゆさと、肩を揺すってみると、ようやく顔を上げた。
「…お前ってモテんだな。
知らなかった。」
「いや、ごめん。
意味がわからん。」
何が気に入らないのか。
はあ、とため息を吐き、なんだか冷たい視線。
「この間、可愛くなったって男子の中でちょっと話題になってたぞ。」
「え、まじでか。」
なにそれ嬉しい。
そうなのか、そんな噂が。
つい、「ふふ。」と笑みが漏れる。
「何、笑ってんだよ。
いいよなー、モテるやつは余裕があって。」
拗ねたように、顔をそらして頬杖をつく。
もう、可愛いんだけど。
…まったく、わかってないなあ。
もし、本当に私が可愛くなったとしたら、それはきっと。
君に恋したからなのに。
「別に、余裕なんてないよ~。
好きな人に、好かれなきゃ意味ないし。」
「え、お前好きなやついんの!?」
勢いよく、振り返ったこいつの顔は、思ったより近くて。
心臓はときめきを超えて、痛いくらいだ。
…ほら、余裕なんてない。
だけど、それを悟らせないように。
「うん、いるいる。
けど、教えてあーげない。」
ニッと余裕ぶって笑顔を見せる。
もう少し、自信を持てたら伝えてみよう。
君のことが、好きだって。