甘くて、苦くて、それが恋【超短編集】
間違っているのは、わかってる
「…っなんで、キスするの。」
私はそう言って、目の前のそいつを力一杯、突き飛ばした。
…しかし、私程度の力ではびくともしないらしい。
より、いっそう、手に力を入れて。
密着度を高めてくる。
近くなる、顔。
感じる、鼓動。
その全てから逃げたくて、目を背ける。
「なんで?そんなの言わなくてもわかるでしょ。」
「わからないよ!
だって、あなたは、私の友達の彼氏なんだから。」
私の言葉に「それが何か?」とでも言うように、笑みを浮かべた。
「確かに、あいつは俺の彼女だけど。
君だって俺のこと好きだろ。」
その、一言が私の胸に突き刺さる。
…ちがう、ちがう、ちがう。
こんな彼、好きじゃない。
そう思ってるのに。
もう一度、唇を重ねようとする彼を、今度は突き放せない。
…私も、君も。
間違ってる。
それは、わかってるけど、わからないの。
誰か、正しさってやつを教えてよ。