死を想う
少年の様に
私は今年甲斐もなく心の底からわくわくドキドキしている。きっと今の私の目は少年の様にキラキラと輝いていることだろう。今年で80と7つを数えるというのに、男というものはいつまでたってもこうゆう部分は抜けない様にできているらしい。ふふっと、軽く声を上げて笑うと鈍く体中が痛んだ。どうやら、笑う事ですら満足にできなくなりつつあるようだ。末期という言葉が頭を巡る。
私は今死の床についている。一昨年息子に勧められ行った健康診断で肺ガンが発見され即入院。精密検査の後、ほとんど間をおかずに手術となった。手術自体は成功と呼べる物だったらしいが、去年ガンの転移が発見され抗ガン剤治療をするも効果は出ず、手の施しようがないと余命一年を宣告された。私の希望により自宅療養に切り替えてもらい今に至る。 医者によれば余命は一年。今日でちょうどその一年を数える。恐らく私の命は今にも消えようとしているのだろう。私を見舞いにくる息子達や孫達の顔色が、来る毎に徐々に暗くなってゆくのを見ていれば誰でも死期が近いのだなと察する事が出来るだろう。だがそんな暗く沈んだ顔に囲まれながらも、私はやはりわくわくドキドキする事をやめられないのだ。
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