死を想う

旅立ちは涙と共に

私が走馬燈であろう夢を見終わったまさに瞬間、辺りが一片の光もない暗闇に閉ざされた。あぁこれで最後なのだなと、頭のどこかで理解する。暗闇の中で何かができるわけでもないので、しばらくぼうっとしていた。すると徐々にではあるが夜明けを迎えたかの様に闇が薄くなっていく。視界が徐々に黒から青に染まってゆく。すると、目の前にどこまでも続く白い一本の道が見えてきた。辺りは見た事もない花が咲き乱れる野原が360°私を囲むかの様にぐるりと地平線の向こうまで続いている。あるのは一本の道と野原だけ。道は後ろにも続いているが、何故かそちらには進める気がしない。仕方なく前に歩を進めてみる。どれだけ進んだだろうか?時間の感覚も曖昧で、私の意識も空をふわふわと浮いているかの様に頼りない。
さらにしばらく歩いていくと、道のずっと先におぼろげながら人影が見えてきた。人影を見つけた瞬間に何故か心がざわめき、立ち止まると目を凝らして人影を見つめる。「どこかで見た様な・・・」疑問が口をついてでる。すると人影がこちらに手をふってくる。それを見た瞬間、私の頬を涙が流れ落ちた。私の妻はいつも独特な手の振り方をしていた。あの人影の様に。それをこの私が見間違えるはずもない。もはや見るまでもなく道の先に立つ人影は私の最愛の人だった。
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