もう一度だけ、キミに


そう耳元で言って、


「何かあったんでしょ?"ぎゅーしてほしい"っておねだりしたってことは」


浩ちゃんがそっ…とそう言って、
私の顔を覗きこむ。


かち合う視線が酷く穏やかで優しい。


私は小さく頷くと、
心にある痛みを吐露する。


「…好きなのに、辛いんだ…」


掠れる、淡く重いその言葉。


音に成せば、あっさりと
空気に溶けて消えていく。


浩ちゃんは返事の代わりに
ゆっくりと私の頭を撫でてくれる。


まるで、壊れ物でも扱うみたいに
その手つきは優しく丁寧で。


ジワリ、言葉の代わりに
熱を持つ滴が世界を淡く歪ます。


目元が熱くて、痛い。
世界が不確かに揺れる。


「……っ。
苦しいのに…っ、」


どうしようもなく、願ってしまう。
あの人の、西藤の傍に居たいと。


「…本当は、好きなのにさ」


それは、言葉に成せれない。

今ある物が崩れて
呆気なく消えていきそうで。



失う事が、辛くて。

苦しくて。



――…だけど。



「…期待させるような事
しないでよ…バカ…」



西藤、好きだよ。



その言葉を言えないのは、
もっと辛くて苦しい。
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