オレンジロード~商店街恋愛録~
「え? もしかして、浩太がスーさんだったの?」

「なっ! 違っ! 俺じゃない!」


『俺じゃない』と浩太は言うが、その焦りっぷりから事実は明白だった。

それでも浩太は「違う」とか「別人なのです」とか全力で否定していたが、喋れば喋るほどボロが出ていた。



「ってことは、ここに駆け付けてくれたのも偶然じゃないってこと?」


しかし、いつも見ててくれて、励まし、エールを送ってくれていた人。



「ねぇ、何で? 何で浩太が?」


そうだと確信して問う沙里に、ついに隠し通せないと判断したらしい浩太は、ふてくされた顔で目を落とした。

そして、何を言えばいいかというように少し沈黙した後で、



「そうだ。あんたの言う通りだ。あんたが言うところの『スーさん』は、俺だ」


獰猛な犬が飼い主に怒られてこうべを垂らしているような、浩太の姿。

しかし、沙里は責めるつもりで聞いているわけではない。


沙里は黙って浩太の次の言葉を待った。



「別に変な意味でやってたわけじゃない。俺はあることがきっかけで、あんたに恩を感じた。だからせめてもの恩返しにと思ってやってただけで」

「……恩?」

「些細なことだ。きっとあんたはあの日のことを覚えてない。でも、別に覚えてなくてもいいんだ。俺が勝手にそれを恩に感じてただけだから」


まったくわからなかった。

『えびす』以外で浩太と会った記憶がないから、浩太の言う『あの日』を思い出せない。


首をかしげて考える沙里に、しかし浩太はやっと顔を上げると、



「けど、俺がやってたことは、やっぱりみんなが言うように、ただのストーカーだ。磯野と変わんねぇ」

「………」

「だから、もう二度とあんたの迷惑になるようなことはしねぇから。『えびす』も辞めるし、あんたが嫌だと思うなら俺はこの町を出て」

「ちょっ、待って!」


思ってもみなかったその発言を、沙里は慌てて制した。



「あたし、別に今まで迷惑だと思ったことなかったし、それにバイト辞めるとかこの町を出るとか、突飛すぎるって」
< 100 / 143 >

この作品をシェア

pagetop