オレンジロード~商店街恋愛録~
「いや、それは俺なりのケジメだ」


まるで意思は固いとばかりに、浩太ははっきりと言い切った。


が、そこでふと、沙里は浩太の腕に擦り剥いたような傷があることに気がついた。

暗がりだから今まで気付かなかったが、もしかしたら磯野と対峙した時についたものかもしれない。



「ちょっと、それよりその話は一旦置いといて、先にその傷、手当てしなきゃ」

「え?」

「うち、ここからすぐだから。って、知ってるわよね。行きましょうよ。ほら、早く。化膿したら大変よ」


促す沙里に、途端に浩太はまた焦り始め、



「なっ! 何言ってんだよ!」

「だから、傷の手当てを」

「お、俺はストーカーだぞ! 危ないやつなんだぞ! ストーカー殺人ってもんを知らねぇのかよ! あんた、殺されるかもしれないんだぞ! 馬鹿か! 警戒心を持て!」


沙里は笑い出しそうになった。

『馬鹿』はどっちだ。



「あんたねぇ、本気であたしのこと殺そうとするやつはそんなこと言わないから。っていうか、あたしのこと助けてくれた人が『危ないやつ』なわけないじゃない」

「ぐっ」

「ほら、行くわよ。あ、ついでにビールも買って帰らない? 一緒に飲みましょうよ。それからゆっくり話の続きを聞くわ」

「なななななっ」


暗がりでもはっきりとわかるほど赤面した浩太を、沙里は引っ張るように歩き出す。



闇が支配していた夜空は、雲間から満月が顔を出した。


磯野に腹が立つ気持ちはあるが、でもそのおかげで『スーさん』の正体を知ることができたのだし、そういう意味では感謝しなければならないのかもしれない。

沙里は妙にすっきりした気持ちで、未だ暴れる浩太を引っ張った。

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