オレンジロード~商店街恋愛録~
ここからは、あとで浩太や商店街のみんなから聞いた話をまとめることにする。
浩太は「昔からとんでもない不良」で、「誰も手がつけられないくらいだった」らしい。
「みんなが怯えきっていた」らしく、「いつかそのうち大きな事件を起こして警察に捕まるだろうと誰もが思っていた」くらいなのだとか。
でも、浩太はある日、「仲間だと思ってたやつらに裏切られてリンチに近いことをされて」、「逃げるように商店街の裏にある公園まで辿り着いて力尽きた」そうだ。
浩太曰く、「その時は、さすがにそのまま死ぬのかと思った」らしい。
が、「その時に『大丈夫?』とハンカチを差し出してくれた女がいて」、「俺は初めて人の優しさに涙した」のだとか。
その女というのが、沙里だったらしい。
もちろん当の本人である沙里はまったく覚えておらず、多分、酔っ払っての行動だったのだろうなと恥ずかしながらも自分で振り返ることしかできないのだが。
とにかく「その女のおかげで真面目になろうと思った」らしい浩太は、まず『えびす』でバイトを始めた。
店長を始め、商店街中の誰もがそんな浩太に驚いたらしいが、でも「浩太が真面目に仕事をする気になったのならみんなで応援してやろう」と意見が一致したのだとか。
だから浩太がどんなに客前で無愛想でも、「きちんと仕事をしているならそれでいい」という寛大な想いをみんなが持っていたのだと言う。
それからしばらく経った頃、沙里がふらりと『えびす』に飲みに来た。
浩太は「何度も話しかけようと思ったし、あの時の感謝も伝えたかったけど、言葉にできないまま、女は帰って行った」から、「きっと近くに住んでるんだろうと思って探したら、一緒の商店街で働いててビビった」と。
でも「やっぱりなんて声を掛ければいいかわからないまま時が過ぎた」そうで、そんな時にたまたま、「『遠藤書店』で『笠地蔵』という童話を目にした」らしい。
雪の日におじいさんから傘をもらった地蔵が、夜な夜なそのお礼にとおじいさんの家の前にプレゼントを置くとかいう内容の本を見て、浩太は「これだと思った!」と鼻息荒く言った。
沙里にとっては、今時、童話の真似なんて子供でもしないだろうと内心で突っ込みたかったが、浩太がそれほどまでに考えてくれていたのだと思ったら、もちろん言えるわけもなかった。
で、始まったのが、今の世で言うところの、ストーカー作戦だ。