オレンジロード~商店街恋愛録~
「そうかぁ。いい人だと思ってたのになぁ。まさかあのストーカーが磯野先生だったなんて、やっぱり人は見掛けに寄らねぇんだなぁ」
ハルは『えびす』のカウンターで感慨深く言った。
さかのぼること数分前。
ハルがあまりにもしつこいので、「ストーカーのことはもう解決したよ」と沙里は言った。
すると、ハルは当たり前だが「どういうことだ?」と根掘り葉掘り聞いてきた。
だけど、浩太が犯人だったとも言えず、誤魔化しながら話しているうちに、なぜかストーカーは磯野で、襲われそうになったところを助けてくれたのが浩太だという図式が出来上がってしまったのだ。
とはいえ、あながち間違ってはいないし、もうめんどくさいのでそれでいいと、沙里は思った。
「まぁ、そういうことだし、もう心配はいらないわ」
沙里は話を終わらせようとそう言ったのだが、
「いや、また磯野が現れないとも限らないだろ」
ハルは力強く言う。
「これからは、何かあったら浩太に頼れよ。な? 浩太はいいやつだから。これだけは間違いない。断言する」
こいつはまた懲りずにそんなことを。
と、思う反面、浩太がいいやつであるということは、沙里ももうわかっている。
「そうだね」
沙里が短く言うと、ハルは酒を飲みながら笑った。
浩太はカウンターの中で焼き鳥を焼きながら聞こえないふりを貫いていたが、でも耳まで真っ赤になっていた。
「とにかくまぁ、今日は俺の奢りだから、みんなで飲もうぜ。ほら、浩太も」
気分がよくなったのか、ハルは上機嫌にそう言って、勝手にカウンターの中に入り、酒瓶を手にする。
店長は奥のボックス席で、すでにいびきをかいていた。