オレンジロード~商店街恋愛録~
朝、レイジが目を覚ますのは、いつもキッチンからの物音でだ。
あくび混じりに体を起こし、寝室を出て居間に向かうと、
「あ、おはよう。ごめんね、起こしちゃった?」
ちょうど食卓に朝食を並べようとしていたところだったらしい雪菜が笑みを向けてくる。
「おはよう、雪菜」
昨日も遅番だったくせに、毎日同じ時間に起きて、朝食と弁当を作る雪菜。
本当は疲れているだろうし、少しでも寝ていたいはずなのにと思うと、レイジは申し訳ない気持ちになる。
「ちょっと待っててね。もうご飯の用意できるから」
そう言って並べられる、モーニングプレート。
雪菜は出会った頃から礼儀作法はもちろんのこと、一通りの家事は完璧にこなせていた。
お嬢様育ちだから厳しく躾けられたのだろうけど、それはつまり、娘を想う親の愛でもある。
だからこそ、こんな自分と駆け落ちまでさせてしまったことを心苦しくも思ってしまうのだ。
でも、どんなにそこに良心の呵責を抱こうとも、雪菜と暮らす“今”を捨てられるはずもなく、
「いただきます」
レイジは想いを心に留めて手を合わせた。
自分がどれほど最低なことをしているのかくらい、わかっている。
だけど、それでも、この瞬間ですら、レイジは幸せだと思うのだ。
愛し、愛され、あたたかな居場所がここにはあるから。
誰にも邪魔をされたくはなかった。
雪菜といられる“今”を守るためなら、自分は鬼にでも悪魔にでもなっていいと、レイジは思っている。
ずっと、ずっと、一生このままでいいのだ、と。