オレンジロード~商店街恋愛録~
レイジは5歳で母に捨てられた。
正確には、母は自分の母にレイジを預けたまま、行方をくらましたのだ。
父親というものがいた記憶は、まったくない。
それからレイジは祖母に育てられたのだが、とても愛情は感じなかった。
祖母は事あるごとに「あんな男との間に子供なんて作りやがって」、「最初から結婚なんて反対だったのに」、「いいようにポイ捨てされて、今度は自分が子供をポイ捨てだ」と、レイジに対して嫌味や小言ばかり聞かせていた。
きっと母は男とでも逃げたのだろうが、祖母からしてみれば捨てるに捨てられない粗大ゴミを押し付けられたという感覚が一番近いのだろうなと、レイジは今でも思っている。
しかし、そんないじわるババアだった祖母も、5年後に、ぱたりと倒れてそのまま亡くなってしまった。
そして、引き取り手のなくなったレイジは、施設に入ることとなったのだ。
施設での暮らしは、今でも思い出したくもない。
服は着まわされたような古着ばかりで、食事も腹を満たすためだけに作られたようなものでしかなく、とても味わおうとかいう気にもなれない代物ばかり。
そういう環境も手伝い、レイジはわずか10歳にして生きることへの希望も価値も見い出せない人間と成り果て、幼いなりにこの人生を終わらせるにはどうしたらいいかと日々考えて過ごすようになった。
友達などいなかったし、欲しいとも思わなかった。
勉強すら無意味に感じて、学校にはほとんど通わないまま義務教育を終えた。
施設は、中学を卒業すると自活できるとみなされ、出なければならない決まりがあった。
生きたいと思っていないレイジだったが、その頃には死ぬことに費やす労力すらないほどの無気力な人間と化していた。
勧められるままに面接を受けて、バイト先が決まり、住む場所も与えられたが、こんな自分が働くなんてと思うと、ひどく滑稽にしか思えなかった。
それでも、死ねないのだから生きているしかなく、そのためには働いて金を稼がなければならないのが世の常だ。
飽きたりサボったりする度に職が変わった。
そうやっているうちに、気付けばレイジは18歳になっていた。