オレンジロード~商店街恋愛録~
「私のことが嫌いなら、私はもう二度とレイジの前には現れない。それでレイジが幸せになるならいい。でも、また死のうとするなら、どんなに嫌がられたって私はレイジの傍を離れないで見張ってる」


その言葉通り、雪菜は時間の許す限り、ほとんどレイジの傍にいた。

大学にも行かず、体の動かせないレイジのために、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。


看護師たちは「いいカノジョね」とか「大事にしなきゃ」と言っていたが、レイジにとってはそれでもまだ、雪菜を信じきることなどできなかった。


客だった女たちは、次第に連絡が取れなくなっていった。

元より一番身近な女であったはずの母に捨てられたのだから、どうせこいつだっていつかは、という疑いは拭えなかったのだ。



でも、雪菜は相変わらず、献身的にレイジの世話をし、変わらぬ愛を向け続けてくれた。



「レイジに出会って、私は人を愛することを知ったの」


雪菜は事あるごとに言った。

「私はレイジに出会ったから毎日楽しいと思えるようになった」、「レイジに救われたの」、「だから、レイジに恩返しをしたいの」と。


それでもいつも何も言えなかったレイジに、ある日、雪菜は言ったのだ。



「ホストとかお客とか、関係ない。ちゃんと、人と――私と、向き合って。駆け引きして逃げないで。自分の気持ちを誤魔化さないで」


逃げずに向き合う。

そう言われたところでどうすればいいかわからなかったレイジは、ぽつり、ぽつり、と、雪菜に自分の過去を話して聞かせた。


母親に置き去りにされたこと、祖母にうとまれていたこと、施設でのこと、この世界に入った理由。


それを話して聞かせることで、だから自分は他人を信じることはないのだと、雪菜にわからせたかった。

しかし、雪菜はやっぱりレイジの考えに反し、



「ずっとひとりで頑張ってたんだね。寂しかったね」


と、言って、涙をこぼした。


その時、ようやく、レイジは気付いたのだ。

あぁ、俺はずっと、寂しかったんだ、と。
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