オレンジロード~商店街恋愛録~
振り向くと、そこには怒った顔でつかつかとこちらに歩み寄ってくる八百屋の健介が。

健介は目の前まで来るや否や、陸人の頭にゴツンとげんこつを落とした。



「いってぇー! いってぇよ! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 頭割れるだろ!」


今度は本当に痛かった。

陸人は涙目になって抗議するが、無視した健介はレイジに顔を向け、



「早く行かないと青年団の会議が始まるぞ。第一回目の会合ってことでハルくん張り切ってるから、俺もレイジくんも遅れたら文句言われそうだし」


言われたレイジも「あぁ、そうだった」と思い出したようにうなづく。


すっかり忘れ去られたような存在の自分。

陸人はわなわなと震える唇を噛み締め、



「ふっざけんな!」


もう何度目かの咆哮の声を上げた。

その勢いのままに、陸人は歩き出そうとするレイジに人差し指を突き立てる。



「おい、酒屋野郎! 俺は認めないぞ! 断じて認めない!」


指差されたレイジは「え?」と再びきょとん顔になるが、



「雪菜は俺と結婚するはずだったのに! 絶対に、お前なんかと結婚させないからな!」


しーん。

と、今まで活気に溢れていたはずの商店街には一瞬の静寂が流れた。


次いで、街ゆく人たちから、「え、レイジくんと雪菜ちゃんって結婚するの?」と声がかかり、一気に人が集まってきた。



「わぁ、おめでとう」

「すごいねぇ。おめでたいねぇ」

「ほんとかい? じゃあ、おじさんお祝いしてやらなきゃなぁ」


老若男女に囲まれたレイジは、困ったように「あはは」と笑う。


陸人は決闘を申し込む勢いだったのに、すでにまわりは祝福ムード。

おまけに背の足りない陸人は人だかりに埋もれてしまって。
< 141 / 143 >

この作品をシェア

pagetop