オレンジロード~商店街恋愛録~
「なっ、ちょっ」


窒息しそうだったところで腕を掴まれ、人だかりから引っ張り出された。

陸人の腕を引いてくれたのは健介だったのだが、



「お前、馬鹿だろ」


毒づかれて驚いてしまう。



「10年修業して出直さねぇと、レイジくんには勝てねぇぞ」


にやにやにやにや。

健介の薄笑いを見つめながら、「ガキ扱いしやがって」と、陸人は奥歯を噛み締める。


しかし、10年経てば、酒屋も八百屋もすっかりジジイじゃないかと思い直した陸人は、



「わかった。俺、10年修業する」

「お? 嫌に物分かりがいいな」

「その代わり、10年後は、どうなっても知らないぞ!」

「……あ?」

「10年経ったら俺はすげぇやつになってるぞ! 酒屋も八百屋もケチョンケチョンにしてやるからな! そんで、俺がこの商店街で一番の男になってやる!」


しーん。

と、再び静寂が訪れた後、一瞬の間を置き、「ぶっ」と健介が噴き出した。


続いてそこにいた人々も、何だかよくわからないまま、「ははは」とほほ笑ましそうに笑った。



「ほんとお前は馬鹿だなぁ」と笑いをこらえながら健介は、



「まぁ、でも、陸人が大人になるまで、俺らがこの商店街を守らなきゃってことだもんな」

「……え?」

「そうやってさ、何十年も続いてきたんだもんな。それを俺らの代で終わらせるわけにはいかねぇし。気合いが入るよ、青年団の一員として」


健介は何かを決意したように強くうなづいた。

しかし、陸人にはその言葉の意味がわからなかった。


どういう意味だと聞こうとした時、
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