オレンジロード~商店街恋愛録~
明子の実家は『オレンジロード』という商店街にある、布団屋だ。
「あー、もう! イライラする!」
何もかもが気に入らない。
まず、自分が商店街で生まれ育ったこと。
それに加えて家業が布団屋だということ。
友達はみんな、郊外の大きくて綺麗な一軒家に住んでいて、親は公務員とか外資系の商社マンとかなのに、こんなの恥ずかしくて誰にも言えやしない。
おまけに、この、ださい『明子』という名前。
明るい子に育ってほしいという願いを込めて祖母がつけてくれたらしいが、今時ありえなさすぎだ。
とにかく自分にまつわるすべてが古臭くて、大嫌い。
「明子。ほら、あんた、高校に行く時間でしょ。いつまでそうやって鏡の前で髪の毛ぐるぐるやってるの」
「うっさいなぁ」
「親に向かってその言い方はないでしょ。大体、何なの、そのお化粧は。塗り絵じゃないんだから。先生に怒られるわよ」
母の言い方ひとつ取っても、やっぱり古臭い。
明子はもはや反論する気さえなくし、ため息混じりに無視をしたのだが、
「お弁当は玄関に置いてるから、忘れるんじゃないよ。あんたの好きな、おばあちゃんの煮物、入れてあげてるからね」
おばあちゃんの煮物を好きだと思ってたのは、小学生までだっつーの。
うざい。
だるい。
どんなに外見を華やかにしても、自分が布団屋の娘であるという事実は変えられない。
あたしは何でこんな家に生まれてしまったのだろうか。