オレンジロード~商店街恋愛録~
駅に向かうために真っ直ぐ商店街を歩いていると、「あきちゃん、おはよう」と、近所のおじさんやおばさんが声を掛けてくる。
古臭い連中とは関わり合いたくないし、他人のふりをしていたいのに。
大体、誰にもこんなの知られたくなくて、わざわざ遠い学校に通ってるのに、その所為で友達とかに知られたらどうするんだっつーの。
「おはよう、あきちゃん」
だから、声掛けんな。
と、睨むように顔を向けたら、まさかの人物に驚かされた。
「レイジくん!」
レイジは1年ほど前から、商店街にある酒屋『長谷川酒店』のバイトをしている、24歳。
こんな古臭い商店街にはまったく似つかわしくない端正な顔の優しい人で、明子は密かにレイジに対して恋心を抱いている。
「おはよう、レイジくん!」
明子は先ほどまでの不機嫌さもどこへやらで、満面の笑みで返した。
レイジはこんな朝早くなのにいつもの爽やかさで、店の名前入りのださい濃紺の前掛けをしていても、顔がいいからそれすらおしゃれに見えてしまう。
明子にとっては完璧な王子様だ。
「レイジくん。早いね、朝」
「配達があったからね」
「ふうん。大変だね」
「そうでもないよ。今の仕事、好きだし」
レイジは「それより」と言って、明子の髪の毛に触れ、
「あきちゃん、器用だね。いつも、綺麗に巻いてるなぁ、って、感心してたんだ」
顔の中心に熱が集まったのがわかる。
早起きして頑張った甲斐があった。
と、同時に、大好きなレイジに褒められたなんて、この上ない幸せだ。
「じゃあ、俺、伝票の整理があるから行くね。頑張ってね、学校」