オレンジロード~商店街恋愛録~
雪菜の自宅は、駅裏の、さらに裏通りを何度も曲がった先にあるアパートの2階だ。
自分の年齢よりも上の築年数らしく、柱は傷だらけで、畳は陽に焼けている。
時代に取り残された、隠れ家みたいなアパートの一室のドアを開ける。
「ただいま」
玄関で靴を脱いでいたら、「おかえり」とレイジが迎えてくれた。
「遅かったね」
「うん。アレンジの練習してたらから。連絡できなくてごめんね」
「いいよ。だと思って、カレー作っといた。俺今日、早く上がれたから」
「ありがとう」
ほほ笑む雪菜。
レイジはそんな雪菜の頬に触れ、
「疲れた顔してる。あんまり無理しちゃダメだよ。倒れたらどうすんのさ」
「うん」
「雪菜に何かあったら、俺死んじゃうよ」
「冗談になってないよ、それ」
「俺が冗談で言ってるわけじゃないって、わかってるだろ?」
雪菜は目を伏せ、うなづいた。
レイジはそんな雪菜を抱き寄せる。
「愛してる」
心地いい響き。
雪菜は思わず笑ってしまった。
「私が疲れてる理由、何だと思う?」
「……アレンジの練習してたからじゃないの?」
「アレンジの練習をしてる横で、奥さんが、レイジがどれほど素敵かっていう話を延々としてたからよ」
レイジは一瞬、きょとんとした後で、噴き出したように笑い、
「じゃあ、そんな『素敵』な俺の恋人が雪菜だって知られたら、大変だね」