オレンジロード~商店街恋愛録~
わかっているのかいないのか。

他人事のように言って笑うレイジを見て、雪菜は少し呆れた。



「それより、早く食べようよ、カレー。レイジの唯一の得意料理だもんね」


レイジは「失礼なことを」と言いながら、体を離した。



「でも、レイジがカレーを作れるようになっただけでも、あの頃から考えれば、すごい進歩よね」

「昔はやらなかっただけで、やればできる子なんだよ、俺は」

「どうかしら。最初は包丁を持つ手も危なっかしくて、見てられなかったけど」

「それは、俺に料理を教えくれる雪菜のスパルタっぷりが怖くて、包丁を持つ手が震えたのさ」

「へぇ、すごい嫌味」


雪菜は荷物を置いて上着を脱ぎ、レイジの作ってくれたカレーを皿によそう。

レイジはいつもの場所に座って待っていた。


「いただきます」と言ってスプーンで掬ったカレーを口に入れる雪菜に、



「どう? 美味しいでしょ。俺の愛がスパイスだから」


照れもなく、レイジはそれが当たり前みたいな顔で言う。

雪菜は笑いながら、



「あぁ、どうりで味が濃いと思ったら」

「そりゃあ、だって、薄め方なんて知らないからね」


レイジはやっぱり顔色ひとつ変えない。


先に好きになったのは、雪菜だ。

しかし、今では、すっかりそれも逆転している気がする。



「そんなことばかり言いまわってるから、商店街の奥さま方に人気なのね」

「別に言いまわってはいないけど。何? 嫉妬?」

「しないわよ、嫉妬なんて。今更、その程度のことでは」


途端に、レイジは困ったような顔になり、「そうだね」と、よくわからない返事を返してきた。

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